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【開催報告】2024-04-07 日本臨床歯科学会 第9回総会・学術大会 in 大阪

2024年度 日本臨床歯科学会

9回 学術大会

202447日(日)、日本臨床歯科学会第9回学術大会が大阪オービックホールにて開催された。当日は300名以上の参加を認め、立ち見が出るほど盛況であった。はじめに総会が行われた。専務理事の土屋賢司先生が挨拶を、議長は伊藤雄策先生が務めた。学術大会は教育講演を添島正和先生、貞光謙一郎先生により行われた。また一般講演を東京支部会員から高山祐輔先生、上野博司先生、綿引淳一先生、宮本英欧先生、川原淳先生、松尾幸一先生が発表し、学術大会の名にふさわしく、研究と臨床様々なテーマで白熱したディスカッションが行われた。

開会のご挨拶

日本臨床歯科学会理事長の山崎長郎先生、大阪支部長の大森有樹先生の挨拶のもと学術大会が開催された。

教育講演1

40 名の総義歯長期経過症例(9年~29年)から人工歯と顎堤吸収の予後を科学する

添島歯科クリニック 添島正和 先生

超高齢化社会に向けて、健康長寿のキーワードは免疫力と基礎代謝のアップであることは間違いなく、歯科診療は患者の心と体の健康維持に役立つものでなければならない。

しかしながら、欠損補綴において、入れ歯を使用している人の85.6%が不便だと感じ、一向に医療苦情の例が絶えない。これらの入れ歯の現実をみても、保険・自費に関わらず高機能快適長寿義歯を提供できる技を身につけることで元気で健康な高齢者の創出と無駄な医療費の削減になり,社会的に国民から支持されると報告された。

一般講演(研究1

日本臨床歯科学会会員におけるラバーダム使用実態調査

中山歯科医院 中山大蔵 先生

日本臨床歯科学会会員にラバーダム使用状況を調査することで、本学会の治療の質をある一面から検証することとRD使用率を上昇させるための施策を検討することを目的とした。

結果はSJCDにおけるRD使用率は72.8%であった.RD使用する歯科医師は、自身が必要性を認識していた(80.7%).過去の勤務先でのRD使用状況と現在の使用状況でχ2検定を行った結果、使用する・使用しないともに有意差が認められた。

歯科医師がRDを使用するきっかけには過去の勤務先でのRD使用状況が影響を及ぼしていた.従って、本学会の使用状況を向上させるためには,その本人に必要性を教育することは重要であるが、一方、自分の行動が日本の歯科医療に大きな影響を与える可能性が高いことを認識してもらう必要性も高いと報告された。

一般講演(研究2

歯面に対する保湿が歯の色に及ぼす臨床的影響

新百合ヶ丘南歯科 高山祐輔 先生

口腔保湿ジェル,蒸留水を用いて歯面を保湿し、その経時的な色調変化を明らかにすることを目的とした。両側上顎中切歯が健康20名の被験者を研究対象として測色装置を用い、口腔保湿ジェル塗布、蒸留水含浸ガーゼで被覆のそれぞれの条件でベースライン時と5分後、10分後の色調を計測し、CIE L*a*b* を用いて表色を行い、色差ΔE00を算出した。

結果は上顎中切歯に対し歯面に保湿ジェル、蒸留水を用いて歯の保湿を行った際の5分後、10分後それぞれに色調変化が確認できたが、両条件間で色調変化において有意差は認められなかったと報告された。

 

一般講演(研究3

上顎前歯叢生の存在が歯周疾患に与える影響について

上野歯科 上野博司 先生

40歳以上の矯正歯科治療を開始した患者における、上顎前歯叢生量と歯肉退縮量の関係を明らかにすることを目的に横断的観察研究を行った。

歯肉退縮量については上顎前歯叢生9㎜以上群の平均値は2.65±2.68㎜(95%信頼区間1.22-2.91)で、9㎜未満群は1.17±1.34㎜(95%信頼区間0.86-1.47)で有意差が認められた。上顎前歯叢生量と同部位歯肉退縮量Spearman の相関係数は0.36であった。

比較的口腔清掃状況が良好な患者においては、上顎前歯叢生は9mm以上において歯肉退縮のリスクになり得るが、過去の我々の研究と比較し下顎前歯よりもリスクは低い可能性があると報告された。

一般講演(研究4

象牙質知覚過敏症におけるフッ素イオン導入法の最適条件と根面被覆術への応用性の検証

東京日本橋AQUA歯科・矯正歯科包括CLINIC 綿引淳一 先生

フッ素イオン導入法の象牙質知覚過敏症に対する有効性とヒト歯根膜線維芽細胞(HPdLF)に対する毒性を検証した。結果として10分間のフッ素イオン導入は、短時間の導入に比べて有意に取り込み量を増やしHPdLFの生存率に毒性は認めなかった。10分の導入は、3分の通常治療に比べて疼痛を有意に軽減し効果的で根面被覆術前の象牙質知覚過敏症の処置としても有用である可能性が示唆された。400μA 10分のフッ素イオン導入法は、根面う蝕予防においても期待できるばかりでなく、歯肉退縮を伴う根面被覆術が予定される象牙質知覚過敏症への処置として、他の方法と比較して安全性が高く有用な治療法であると報告された。

一般講演(研究5

歯科用CTを用いた上顎結節の解剖学的検討

ナハデンタル 宮本英欧 先生

上顎結節から骨移植を行う、もしくは矯正用インプラントアンカーを安全に埋入するためには、上顎結節の硬組織形態を詳細に知る必要がある。本研究は、一般歯科医院に来院した患者を対象に、過去に治療目的で撮影したCBCTデータを用いて上顎結節の硬組織形態を明らかにすることを目的とした。上顎結節の骨幅は有意差を持って男性の方が女性よりも大きかった。また、同一患者、同一断面における上顎結節の皮質骨厚みは口蓋側の方が有意差を持って大きかった。上顎結節の骨高さにおいて一部の計測断面で年齢と軽度な正の相関を認めた。上顎結節の解剖学的な硬組織形態は性別と年齢によって差異があることが示唆され、上顎結節から骨移植を行う、もしくは矯正用インプラントアンカーを埋入する場合にはこれらを考慮する必要があると考えられると報告された。

一般講演(臨床1

酸蝕症により咬合崩壊した症例に対し咬合再構成治療を行った3症例

タニオ歯科クリニック 谷尾和正 先生

酸蝕症によって口腔内が崩壊した患者に対しTurnerの分類を参照に治療計画を立案し機能回復を図った2症例を報告された。咬合再構成治療をするにあたり下顎位のずれの有無(中心位と最大咬頭嵌合位)、Tooth Wearの進行速度による代償的な歯の挺出、咬合高経の低下の有無など、個々の患者を把握し治療しなければ良好な治療結果が得られない。酸蝕症患者を咬合再構成する際、患者の症状や歯の状態、治療部位によってクラウン、オクルーザルベニア、ラミネートベニアを使い分け、様々な状態を有する患者に合わせた治療計画を立案、咬合(アンテリアカップリング,バーティカルストップ)、歯周組織の安定を図る事により長期的な治療結果が得られると考えられると発表された。

一般講演(臨床2

骨格性下顎前突に対して外科、矯正、補綴のインターディシプリナリーアプローチを行った症例

HONDA DENTAL OFFICE 本多浩二 先生

骨格性下顎前突に対して、外科医、矯正医と連携して補綴治療を行った症例を報告された。

補綴治療において歯のポジションは非常に重要であり、特に良好なアンテリアガイダンスが獲得できなければ、矯正治療が必要となる。しかしながら、骨格的な問題により咬合状態に問題があるのであれば、外科矯正が必要となると発表された。

一般講演(臨床3

顎位を変更しocclusal cant を改善した一症例

中島歯科医院 中島圭治 先生

歯性のocclusal cantを有し、多数の欠損歯、保存不可能な歯を認める患者に対し顎位を変更してインプラント治療と矯正治療を行い良好な結果を得られた症例を報告された。

咬合平面の垂直的な変化や回転は,occlusal cantとみなされ、骨格性または歯性に由来する可能性があり、顔面非対称にも関連すると言われている。また上顎の咬合平面傾斜と下顎の側方偏位が関係しており、下顎偏位側に向かって上顎咬合平面が上方偏位することが多いと報告され、臨床的には機能と審美性に大きな影響を及ぼすと発表された。

一般講演(臨床4

軽度骨格性級開咬に対して垂直的なコントロールとノンプレップベニア修復を含めたオクルーザルリハビリテーション 8年フォローアップ症例報告

川原歯科医院 川原淳 先生

軽度骨格性級開咬に対して、開咬の原因となっている咬合高径の改善を行い、被蓋改善に矯正歯科治療に加えて舌側ノンプレップベニアを含めた修復治療は有効であると報告された。治療終了から4年後に犬歯切縁のコンポジットレジンが失われていたため、プレスセラミックスのベニアチップに置き換えた。治療終了から8年経過し現在も良好な経過を維持していると発表された。

一般講演(臨床5

矯正治療中にクリックを発現後アキシオグラフで顆頭位を修正し歯冠修復した症例

中野デンタルクリニック 松尾幸一 先生

下顎位や上下顎の咬合状態、トゥースポジションを矯正治療で改善し、その下顎位をアキシオグラフで確認し、最終補綴物を装着、術後10年が経過し、機能的・審美的に良好な予後が観察できた症例を報告された。アキシオグラフを初診時や矯正後に用いることで的確な下顎位や上下顎の歯の位置関係を求めることができ、切歯路角と顆路角を正確に再現した口腔内では予後不良とされる根管治療歯や残存歯質の少ない歯冠修復歯でも延命させることが可能であると発表された。

一般講演(技術紹介)

顎運動の可視化を検証~形態的側面と機能的側面から~

秋田歯科 秋田洋季 先生

咬合崩壊を伴う患者に対し顎運動計測装置を用いて顎運動を計測し,顎運動と咬合面接触の関係を可視化し検証を行うことで、臨床においてどれ位有用なのかを発表された。運動計測装置を用いて顎運動と咬合面接触の関係を画像でみると、特に咬頭嵌合位の安定と、顎運動時の咬合干渉を回避できており、このことからも臨床咬合実践学から長期症例の検証によって、アナログデンティストリの有用性が十分に確認できたと報告された。

教育講演2

包括的治療における客観的基準の構築デジタル機器をもちいて

貞光歯科医院 貞光謙一郎 先生

1900年初頭より始まった包括的治療の流れは確立し、臨床では数多くの長期予後経過も認められている。しかしながら治療結果の良否は術者の経験値に影響される側面も見受けられる。デジタル機器を用いて患者固有の客観的基準を包括的治療に取り込むことは、より精度の高い包括的治療を進められることが示唆されると発表された。

示説発表(ポスターセッション)

P01 術前インプラント診断時 CTデータのメタルアーチファクトを避けるために使用する口腔内アプライアンス製作とその使用方法

千葉歯科クリニック 須田善行 先生

X線不透過性のマーカーを使用した口腔内アプライアンスを使用することにより多数の補綴歯を有する口腔内においても歯冠形態や咬合状態などの機能的な情報も利用した臨床適応に支障のないサージカルガイドの設計、製作が可能であった。

P02 スプリント療法にて適正な下顎位を模索した症例

東松島かどわき歯科クリニック 門脇研司 先生

下顎位の変化による機能障害と審美障害を有する患者に対して,スプリント療法にて適正な下顎位を模索して安定した 咬合状態を得る事が出来た症例を報告された。

P03 FGF-2 による歯周組織再生治療を行なった慢性歯周炎症例

村田歯科医院 村田雅史 先生

歯周炎Stage III Grade B患者の垂直性骨欠損に対してFGF-2を単独で使用した結果、良好な歯周組織の改善が認められたケースを報告された。

P04 MSEを利用した症例のセファロ分析の比較検討

アン歯科 安藤裕章 先生

MSEMaxillary Skeletal Expander)は口蓋側皮質骨から鼻側皮質骨に貫通するように垂直にTADS4本埋入し、正中口蓋縫合をBy lateralに開く装置である。MSEの効果だけで行った43症例をセファロ分析し比較検討した結果を報告された。

P05 上顎前歯部の審美障害および咀嚼機能障害を伴った患者に対して咬合再構成を行った症例

てらさか歯科医院 寺坂弘司 先生

上顎前歯部の重度前突患者に対して、全顎的な咬合再構成を行ったケースを報告された。

歯周初期治療後に崩壊状態であった歯の抜歯を行い、同時に下顎前歯部においては限局矯正を行った。プロビジョナルデンチャーを作製し、顎位を模索しながら機能的に問題がないことを評価した。インプラントを埋入後、固定性のプロビジョナルレストレーションで一定期間観察後、再評価をし、ファイナルレストレーションへと移行した。

P06 インプラントとキャストパーシャルデンチャーを用いて咬合再構成を行なった1症例

みやざき歯科クリニック 宮崎康弘 先生

下顎にはインプラント治療を、上顎にはキャストパーシャルデンチャーを用いて、全顎的治療を行った。プロビジョナルレストレーションを用いて、咬合の安定、残存歯の保存の可否を判断し、最終補綴へと移行した一例を報告された。

P07 水平的骨欠損に対して骨造成した下顎前歯部の7年経過症例

あいおい通り歯科クリニック 大井手和久 先生

限局型重度慢性歯周炎と診断した患者に初期治療後、EMDFDBAを併用した再生療法を行い、術後7年経過し順調な経過を辿っているケースを報告された。

閉会のご挨拶

最後に副理事長の本多正明先生より閉会の挨拶があり、

2024年度日本臨床歯科学会第9回学術大会は盛会の中、幕を閉じた。

 

 

文責:中野忠彦、澤井裕貴、高島浩二

 


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