〜開催報告〜 日本臨床歯科学会 東京支部 第2回Web例会
国民皆歯科検診の導入が検討されるなど国民の顎口腔系の健康に対する関心が年々高まる中、日常臨床に於いて患者さんから歯の保存に対する要望は多く聞かれることと思います。一方で長期にわたり良好な状態で歯を保存していくことは決して簡単なことではなく皆様も臨床に於いて苦慮されたことがあるのではないでしょうか?そこで、今大会はチ ェアマンを北原信也先生(日本臨床歯科学会東京支部副会長)に務めていただき、『1本の歯を守るためのチーム医療 ~接着から咬合まで~ 』をテーマとし皆様と1日を通して考えていこうと思います。
教育講演には北原信也先生、橋爪英城先生、新妻由衣子先生、遠山敏成先生、一般講演には富施博介先生、高島浩二先生、杉山達也先生がそれぞれご登壇されます。演者の先生方は皆様ご存じの通り、歯科界で多岐にわたり第一線でご活躍されているご高名な先生ばかりであります。
今回は皆様と理解を深めるため教育講演の内容を実際の臨床で応用した症例を一般講演として発表いただくスタイルとなっており大変有意義な内容となっております。
〜〜11月22日 追記〜〜
2022年10月30日秋晴れの中、日本臨床歯科学会 東京支部第2回『web』例会が行われた。テーマを『1本の歯を守るためのチーム医療~接着から咬合まで~』、チェアマンを北原信也先生(日本臨床歯科学会 東京支部副支部長)が務めた。山口宜伸先生の司会、大河支部長の挨拶のもと始まった。
大河先生の挨拶では日本の歯科環境は海外と比べ厳しい立場にあるが、日頃から知識、技術の研鑽を積み、頑張った先生が報われるような社会になってほしいと述べられた。SJCDがその一助になれる学会を目指していきたいと熱い思いを語られた。
その後、北原先生から今回の大会の趣旨について、1本の歯の確実な構築、その集合体がコンベンショナルな治療に繋がると説明があった。また、近年の海外の傾向としてインターディスプロナリーアプローチの中にリサーチャーが含まれていることを述べられた。北原先生のチームでも臨床のエビデンスをサポートする存在として大学所属の先生が参加しており、新たな試みについて紹介された。
教育講演1
根管拡大からコロナルレストレーションまで
MIコンセプトに基づく根管治療
橋爪英城先生 橋爪エンドドンティクス デンタルオフィス
根管治療成功のための大原則は適切な診査診断のもと確実な感染制御を行う事、さらに処置歯の寿命を長くするためには適切なコロナルレストレーションを行うことが非常に重要であると述べられた。
そして、目標達成のためには『少ない回数で治療を終えること』と『歯質の切削量を必要最小限にすること』すなわち“Minimum Invasive”であることが求められると述べられた。それを実践するための手技や留意点について解説、最後に実際の臨床例を示された。根管治療は臨床医にとって日々の診療で欠かせない治療であり、明日からの治療に取り組めるとても実践的な内容であった。
教育講演2
接着歯学とマテリアルから考える審美修復治療
~Esthetic restorative treatment from viewpoint of
adhesive dentistry and materials~
北原信也先生 TEAM東京ノブレストラティブデンタルオフィス
接着をテーマに根管治療、支台築造からマテリアルを考え適切な咬合を与えたクラウンまで、1本の歯牙における確実な「構造」についての以下の要件について解説していただいた。
1)Preservation of tooth 2)keep ferrule
3)No need long post 4)Dentin bonding
5)Crown materials +Adhesion 6)Occlusion
1本の歯を守る要件としてこの6要素を実際の臨床例を交えて解説していただき、とても分かりやすく接着について知識が整理された。
機能と歯周組織の調和から審美までの予知性の高い補綴物を製作するにあたり、日常診療で行っている接着操作について見つめ直す良い機会になった。
11月26日、27日に広島で行われる合同例会で東京支部からは綿引淳一先生と上野博司先生の登壇を予定している。昼休憩の前に、上野先生から合同例会に挑む意気込みを述べられた。
教育講演4
ジルコニアの接着を再考する
新妻 由衣子先生
昭和大学歯学部歯科保存学講座美容歯科部門
臨床においてジルコニアの接着について悩む歯科医師は決して少なくない。新妻先生はこれまでのジルコニア接着の科学的見解と最新の研究論文を整理し、それに基づいてより臨床的なジルコニア接着のシステムの要点を①Primer ②Contamination ③Surface treatmentの3項目に分けて解説していただいた。結論として高透過性ジルコニアとレジンセメントの接着には、被着面に対し、接着処理前に低圧のアルミナサンドブラスト処理を実施し、MDP含有プライマーを用いることが接着の向上、良好な接着耐久性を獲得することができる方法であると述べられた。加えてアルミナサンドブラスト処理は、ジルコニアの種類やアルミナサンドブラストの条件によってはジルコニアの機械的性質に影響を与えるために、更なる検討が必要であるとも述べられた。臨床に即したエビデンスを聞くことができ、大変興味深い内容であった。
一般講演1
先天的な歯の異常による審美障害の改善を目指して、シングルリテンションブリッジで治療し た1例
富施博介先生 ライフデンタルクリニック
症例は若年の女性であり、右上3が埋伏、右上2が矮小歯、左上2が先天欠如という様々な問題を抱えているケースであった。まずは、矯正治療により埋伏歯を牽引、左上2における補綴スペースを獲得した。そして、矮小歯である右上2にはラミネートベニヤ、左上2の先天欠如部には、接着性ブリッジを装着し、非常に低侵襲であり、かつ審美的な仕上がりであった。若年者における インプラント治療の是非が問われる昨今、修復治療により欠損を補うという、まさにライフデンタルクリニックという名前の通り、その患者の年齢や職業、性別に適した治療であった
教育講演4
デジタル・マテリアル変化に対応した機能的なクラウンの作製
遠山敏成先生 医療法人社団スターティス マイスター春日歯科クリニック
現在、歯科とデジタルは切っても切ることのできない関係であり、「digital dentistry」という言葉も聞き慣れるまでとなった。そんな中、遠山先生は技工士 桑田先生の考案された「threeplane concept」をデジタルに盛り込むメソッドを教示された。その高い技術力により生み出された補綴治療は、デジタル下においても遺憾なく発揮され、高難度の一歯単位においても高いクオリティを獲得していた。今後もSJCDにでの発表を期待してやまない。
一般講演2
先天性欠如を伴う歯列への対応に矯正治療とインプラント治療を用いた一例
高島浩二先生 ほんごう歯科診療室
患者は下顎前歯部、および下顎右側小臼歯の先天性欠如を伴う中高年女性であった。患者の主訴は、その欠損を補うことであった。既存の顎位における欠損補綴という道筋もあったが、患者の希望、年齢等から総合的に判断し、矯正治療とインプラントを併用した咬合再構成を伴う治療計画となった。矯正医との連携、高島先生の高いレベルでのインプラント治療により全ての歯牙が単独で成立し、審美的であり機能的な仕上がりとなっていた。
一般講演3
変形性顎関節症の患者に対して咬合再構成を行った症例
杉山達也先生 杉山歯科医院
杉山先生は、10年以上の長期にわたる顎関節症に悩んだ患者のフルマウスリコンストラクション症例を提示された。開口障害が併発していた状態をスプリントにより機能的回復を行い、CRポジションで作製されたプロビジョナルレストレーションによって長期的な経過をみた。前歯部の歯冠長径を取り戻すとともに、開咬状態であった小臼歯部より前方部の咬合接触を取り戻し、神経筋機構の安定を獲得した。現在最終補綴物に移行し4年間の安定した状態を維持しているということである。杉山先生らしい素晴らしい症例であった。
全ての講演終了後、ディスカッションを行った。新妻先生へ多くの質問があり、臨床に直結するエビデンスについての関心が高いことが伺われた。しかし、症例についてのディスカッション時間とあまり取ることができなかったため、アンケートでも要望の多いディスカッション部分を掘り下げた新たな企画を計画中である。今後の展開に期待を寄せたい。
その後、第3回例会のチェアマンである理事の植松先生より令和4年3月5日に予定している次回例会についての告知が行われた。
最後に副会長の西山先生の挨拶により、日本臨床歯科学会東京支部第2回例会は盛大な拍手と共に幕を締めた。