〜開催報告〜 日本臨床歯科学会 東京支部 第3回Webステップアップミーティング
わが国における歯を失う原因の第1位は歯周病であり、成人の約8割が罹患しているとされております。つまり、われわれの日常臨床において必ずと言っていいほど歯周病の症例に遭遇しております。一方で歯周病に罹患した歯を長期にわたり良好な状態で維持していくことは決して簡単なことではなく皆様も臨床に於いて苦慮されたことがあるのではないでしょうか?そこで、今回のステップアップミーティングでは 『歯周病を再考』すべく、皆様から多くのご要望をいただいておりました山口文誉先生に教育講演をしていただきます。「歯周基本治療」から近年注目されている低侵襲非外科治療「MINST」まで分かりやすく講演していただく予定です。
一般講演には稲垣伸彦先生、星野修平先生、堀切雅文先生がそれぞれご登壇されます。稲垣先生、星野先生には「歯周病」の長期予後症例、堀切先生には当学会で昨今話題となっております「睡眠時無呼吸症」に対し咬合再構成を行なった症例を発表していただきます。
歯科医師のみならず衛生士、技工士の皆様にも非常に有意義な講演内容となっております。ステップアップミーティングを通じて皆様の日々の臨床のステップアップにつながれば幸と存じます。
皆様、お誘い合わせのうえ是非ご参加いただけますようお願いいたします。
[日時] 2023年2月5日(日)12:00〜
〜教育講演〜
山口文誉先生(山口歯科医院)
「知れば知るほど、おもしろい!ペリオの臨床(Dr/DH;歯周基本治療 編)」
〜一般講演1〜座長:河合竜志先生
稲垣伸彦先生(みどりが丘歯科クリニック)
「咬合性外傷を伴う限局型中等度慢性歯周炎患者の術後10年経過症例」
〜一般講演2〜座長:綿引淳一先生
星野修平先生(星野デンタルクリニック)
「開口を伴う重度歯周炎患者(Stage III GradeC)に対し包括的対応を行なった1症例」
〜一般講演3〜座長:吉田茂治先生
堀切雅文先生(TEAM東京ノブレストラティブデンタルオフィス)
「閉塞性睡眠時無呼吸症を考慮し咬合再構成を行った症例」
〜〜開催報告〜〜
2023年2月5日(日)12:000より御茶ノ水ソラシティにて2022年度日本臨床歯科学会東京支部の第3回ステップアップミーティングが開催された。今回も感染対策を徹底した上で行われた。川手良祐先生の司会でスタートし、東京支部支部長である大河先生の挨拶から始まった。来年度の展望、5月の補綴学会、9月の国際歯科大会では、SJCD40周年記念大会である事などお話し頂いた。
今回は『歯周病を再考する』と言うテーマで山口文誉先生に教育講演して頂いた。
一般講演では稲垣伸彦先生と星野修平先生による『歯周病の長期予後症例、堀切先生による睡眠時無呼吸症に対する咬合再構成を行なった症例を発表して頂いた。
どの発表もディスカッションも白熱し、大変見応えのあるものであった。
教育講演
知れば知るほど、おもしろい!ペリオの臨床(Dr/DH;歯周基本治療編)
山口歯科医院 山口 文誉先生
まず始めに、山口文誉先生より歯周治療の中でも最も
重要となる『歯周基本治療』にフォーカスし講演して頂いた。OHI、非外科的治療、MINST(低侵襲非外科治療)、咬合性外傷、再評価、インプラント周囲疾患など様々な重要なテーマに関し日常臨床で抱いている多くの疑問に関しシェーマや論文を用いて、分かりやすく解説頂いた。また、20年ぶりに一新した歯周病の新分類を基準としたクリニカル•ガイドラインを最新論文を基に解説頂き、世界基準の現在の歯周治療の考え方を拝聴する事ができた。歯科医師そして歯科衛生士にとって、明日からの臨床に応用できる貴重な情報が盛り沢山で、あっという間の90分であった
一般講演1
「 咬合性外傷を伴う限局型中等度慢性歯周炎患者の
術後10年経過症例」
みどりヶ丘歯科クリニック 稲垣 伸彦先生
座長:河合 竜志先生
歯の保存を強く希望された咬合性外傷を伴う限局型慢性歯周炎stageⅢ gradeCの患者に対し、歯周組織再生療法,根分割治療さらに自家歯牙移植、部分矯正など用い歯周組織と咬合の安定を獲得し、術後10年という長い期間メインテナンスした症例を発表された。稲垣先生の歯の保存へのこだわりとテクニックは圧巻で、炎症と力の両側面を重視した治療はかなり緻密であった。術後10年と長い期間ほぼ変わらずに口腔内の状況を維持できているのは患者の努力と信頼関係があってのことである。ぜひ今後、15年、20年の長期症例も拝見させて頂きたい。
一般講演2
「 開咬を伴う重度歯周炎患者(stageⅢ GradeC)に対し
包括的対応を行なった1症例」
星野デンタルクリニック 星野 修平先生
座長:綿引 淳一先生
開咬を伴う患者の口腔内は、臼歯部が干渉し限局的に重度な歯周炎により骨吸収を起こしていた。診査診断、歯周基本治療を行い、元々の深いポケットは残ったが、歯周再生療法をを用いてポケットの改善を行なった。特に右上5番は再生療法の術後の経過には目を見張るものであり、発表後の山口先生からの質疑応答では、治療の成果に対する称賛があった。
その後、矯正治療に移行し、アンテリアガイダンスの付与を行い、歯周組織の安定を求める為、力のコントロールを行なった。治療後、8年近く経過して、多少の変化はあるものの、口腔内は安定しており、星野先生の治療の一つ一つが成功したものと考える。
発表後の質疑応答でも、矯正サイドからの開咬治療では抜歯が必要だったのではないか、歯周治療サイドからは全顎に渡る歯周再生療法は必要があったのかなど、白熱した質疑応答が行われた
一般講演3
「 閉塞性睡眠時無呼吸症を考慮し咬合再構成を行なった症例」
TEAM東京 ノブレストラティブデンタルオフィス
堀切 雅文先生
座長:吉田 茂治先生
最後は現在注目されている睡眠時無呼吸症の疑いのある患者に対し咬合再構成を行った症例の発表を堀切先生にして頂いた。この患者は、咬合平面の不正や多数の不適合修復物があり、咬合再構成が必要であった。さらに自覚症状が無いものの、問診や顔貌、口腔内所見により睡眠時無呼吸症の疑いが持たれた。睡眠評価装置を用いて診査を行い睡眠時無呼吸症の可能性が高い。顎骨は骨格性2級という事もあり、咬合再構成には矯正が必要であるが、抜歯矯正を行うと、口腔内容積の低下により、無呼吸症をさらに悪くすると考えた堀切先生は、抜歯は行わず、マウスピース矯正で口腔内容積を減らさない様に矯正を行なった。質疑応答でも、現在まだ治療途中である為、今後を見据えた様々な質問が飛び交い、盛り上がった。
最後に西山副会長から来年度予定など締めのご挨拶を頂いた。この日の視聴者は歴代2位の200名近い会員に視聴して頂き、さらに多くの衛生士も参加し、歯周治療は日頃の臨床に直結し、次の日から生かせるような大変興味深い内容であった為と思われる。
こうして東京支部 第3回「webinar」ステップアップミーティングは、幕を閉じた。