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【開催報告】2025年度 日本臨床歯科学会 第10回学術大会

2025518日(日)、日本臨床歯科学会第10回学術大会が福岡県電気みらいホールにて開催された。当日は200名以上の参加者を集め、40社もの賛助企業にもご協力いただいた。はじめに大会長の土屋賢司先生による挨拶のもと、実行委員長の中島圭治先生(福岡支部)が取り仕切る中、伊藤雄策先生が議長として総会が執り行われた。学術大会は教育講演が安藤裕章先生より講演された。一般講演(研究)では東京支部からは柏木了先生、斎藤隆輔先生、池畠光朗先生、新妻由衣子先生と多くの先生が発表され、研究・臨床の多岐にわたるテーマで活発な議論が交わされました。本学術大会にふさわしい、熱量あふれるセッションが展開されました

 

開会のご挨拶

大会長である土屋賢司先生の挨拶のもと学術大会が開催した。

 

教育講演

MSEの適用症を考える

アン歯科 安藤裕章 先生

 

MSEMaxillary Skeletal Expander)は、成長が終了した成人に対しても、外科的介入を行うことなく上顎骨の骨性拡大を実現する矯正装置である。今回、骨格性Ⅲ級症例や開咬症例において顕著な効果が確認された4症例を取り上げて、その三次元的な骨格変化と機能的改善について講演された。

また、外科的処置を伴わずにMSE単独で治療を完結された48症例について臨床的検討を行い、従来のMARPEおよりSARPEとの比較を行い、MSEの有効性とその限界、さらには適応年齢や骨縫合の状態に基づいた適用選択について報告された。

 

一般講演(研究1

下顎運動データを用いて製作した臼歯ジルコニアクラウンの臨床的評価

柏木歯科 柏木了 先生

下顎運動データの有無がクラウンの咬合調整量と調整時間に与える影響を比較検討することにより、下顎運動データの臨床的な有用性を明らかにすることを目的とした。柏木歯科で補綴治療を行ったジルコニアクラウン40本(男性1212本、女性2828本)を研究対象とし、ジルコニアクラウン40本を20本×2群に無作為に分け、一方を静的咬合データのみで製作したもの、もう一方を下顎運動データを反映させて製作したものとして、その測定結果に統計解析を行った。統計解析の結果は咬合調整量、咬合調整時間ともに下顎運動データを反映させた群の方が有意に少ない結果になったと報告された。会場からは装着後12週間後の調整の有無やさらには職業別の調整量についての後考察があるとより面白いかもとの意見が伺えた。

 

一般講演(研究2

日本人の成人における上唇小帯の付着位置と正中離開の関連性について

さいとうデンタルクリニック 斎藤隆輔 先生

さいとうデンタルクリニックに受診している日本人の成人患者における年齢別・性別の正中離開の出現率を調査した。同様に4つに分類されている上唇小帯付着位置の割合調査することで正中離開の原因と言われている上唇小帯付着位置異常の出現率を明らかにすることを目的とした。その結果、日本人の成人の正中離開の出現率は12%で正中離開の発生リスクは男性が女性の2.59倍高いとの結果が得られた。付着位置の割合は粘膜型(10.5%)、歯肉型(69%)、乳頭型(19.6%)、歯間侵入型(0.9%)と4つの中で歯肉型が多く見られた。また、小児における発生頻度は49%と成人と比較して高い傾向にあり、上唇小帯の付着異常が乳幼児期に見られても、外科的切除は行わず永久歯萌出完了まで観察し、正中離開の原因と判断される場合に実施することが望ましいと報告された。

 

一般講演(研究3

歯の色合いの好みに対する性別と年齢の影響について

中津浜デンタルクリニック 池畠光朗 先生

Augmented RealityAR)技術を用いて日本人の歯のシェードに対する好みに、性別や年齢が与える影響を調査し、そして患者と歯科医師のシェード評価の一致度を検証して患者中心の補綴治療計画に役立つ知見を得ることを目的とした。2060代の男女150名を対象にIvoclar Smileを使用してAR技術を用いて歯の色調シミュレーションを作成し、それぞれ被験者と歯科医師が選んだシェード評価の一致度を統計解析にて分析した。被験者と歯科医師のシェード評価の一致度は低かったが、その中でも30代女性は一致度が高い傾向にあった。また、男性は年齢に関係なく一致度は低く、女性と比較して審美にこだわらない場合があることが示唆されると報告された。

 

一般講演(技術紹介)

抜歯即時埋入の術式を臨床例から考察する

中島歯科医院 中島圭治 先生

患者がインプラント治療を受け入れやすくする為に、低浸襲(軽度な外科処置、外科処置の減数)、短期間で達成することが求められている。その方法の一つとして抜歯即時埋入があげられる。抜歯即時埋入は抜歯直後の抜歯窩に埋入するため、抜歯窩のサイズによっては、十分な初期固定や機能するために必要なオッセオインテグレーションの獲得が困難な場合もある。また必要に応じて、硬組織や軟組織の造成処置の併用が必要となることもある。よって抜歯即時インプラント埋入を成功に導くには症例の選択や埋入術式に配慮する必要がある。今回は1人の患者に右上4番、左上5番、右下6番と3箇所の抜歯即時埋入を行った症例について提示していただき、その初期固定の獲得とその後の経過について報告された。

 

一般講演(研究4

CAD/CAM二ケイ酸リチウムインレーの窩洞適合性に影響を及ぼすレジンセメントのレオロジー特性

昭和大学歯科病院 保存修復科 新妻由衣子 先生

CAD/CAM システムを用いて製作した二ケイ酸リチウムインレーの窩洞適合性にレジンセメントの特性がどのように影響するかを検討することを目的とし、基礎的研究を実施した。方法としてはCAD/CAM システムにより二ケイ酸リチウムインレーを製作し、レジンセメント、フロアブルコンポジットレジン、加熱したペーストレジンを用いてセメンテーションを行い、その窩洞適合性を評価した。さらにそれぞれのセメントについて粘度、被膜厚さ、荷重時の広がりを評価し、それらと適合性との関係性を検討した。その結果、辺縁適合性と内部適合性のすべてにおいて加熱したペーストレジンと他のセメント間に有意な差が認められ、有意に大きいセメント厚さが観察された。窩洞適合性に及ぼすセメントの特性を評価した結果、荷重時のセメントの広がりとの間のみ相関関係があったと報告された。

 

一般講演(研究5

Relationship between temporomandibular jointdisorder and psychological factors: the NagahamaStudy

京都大学大学院医学研究科 感覚運動系外科学講座口腔外科学分野 浅井啓太 先生

顎関節症の原因として心理社会的要因が考えられている。本研究では大規模疫学調査のデータを用いて、顎関節症と心理社会的要因との関連を検討した。長浜研究に参加した8,259名(平均年齢53.6±13.4歳)を対象に横断研究を行った。顎関節症状として、トリスムス、顎関節音、咀嚼筋痛を評価した。顎関節症状と5項目のメンタルヘルス指数(MHI-5)との関係を分析した。結果は咀嚼筋痛とMHI-5の間に正の関係が認められ、オッズ比は1.495CI1.2-1.6)であった。本研究は、咀嚼筋痛と心理社会的因子との関連性を示唆し、心理的因子と顎関節症および歯の喪失との間に正の関連があることが明らかになったと報告された。

 

一般講演(臨床1

上下顎両側遊離端欠損および咬合高径の低下を認める患者にインプラントを用いて咬合再構成を行った症例

黒住歯科医院 黒住琢磨 先生

今回、上下顎両側遊離端欠損および咬合高径の低下を認める患者について、インプラントを用いて臼歯咬合支持を確立し、長期的な咬合安定を目指して咬合再構成を行った症例について発表された。特に臼歯部の咬合面をメタルで作製してキーアンドウェイにすることで摩耗に配慮する構造が大変興味深い方法であった。さらに摩耗しても良いようにスペアの補綴装置を複数作製していることも面白い内容であった。

 

一般講演(臨床2

多数歯欠損患者に対しデンタルインプラントを固定源に用いて矯正治療を行った一症例

カツベ歯科クリニック 勝部義明 先生

今回、骨格性Ⅲ級の切端咬合で多数歯欠損による咬合崩壊を呈している患者に対して、補綴治療と矯正治療を組み合わせた咬合再構成を実施した症例を発表された。診断ワックスアップを作製し、それをガイドとして理想的な位置にデンタルインプラントを埋入。埋入したインプラントは、矯正治療における固定源としても活用された。これにより、動的治療期間の短縮を図りつつ、下顎前歯部の後方移動を可能とし、最終補綴時には適切なアンテリアカップリングの確立に成功された。残存歯を矯正的挺出し、インプラントを併用することで予後7年と長期間経過を辿ることができた素晴らしい症例であった。

 

一般講演(臨床3

骨不安定な顎位と不整な咬合平面を有する患者に行ったデジタル技術を用いた咬合再構成

きむら歯科医院 木村正人 先生

多数の予後不良歯と咬合平面の乱れを認めた患者に対して、顎位の安定化を目的に全顎的な咬合再構成を計画した症例を発表された。包括的な治療では、診断用ワックスアップなどで得られた計画を正確に治療へ移行することが求められるため、口腔内スキャナーを用いたデジタル技術を活用し、計画の再現性を向上させた。また、本症例は上顎がすべて支台歯となっており、スキャン時のリファレンスポイントが減少し、印象採得のエラーが生じやすいことが予想されたため、コンポジットレジンを用いて、口蓋粘膜部にマーカーを設置し、歯列以外にリファレンスポイントを作成することでスキャンの精度を向上させた。結果としてエラーが減少し、データの正確性が向上した。治療後は顎位の安定が確認され、審美的にも良好な結果が得られた素晴らしい症例であった。

 

一般講演(臨床4

前歯単独歯欠損症例におけるシングルリテーナー RBFDP の有用性について

いいだ歯科医院 飯田真也 先生

前歯部単独歯欠損に対する低侵襲補綴治療として、シングルリテーナー・ジルコニアレジン接着ブリッジ(RBFDP)の臨床的有用性を評価し、ダブルリテイナーとの比較検討をおこなった。ジルコニア接着には APCAirborne-particle abrasion, Primer, Composite)法を基本方針としつつ、新たにジルコニア被着面に対してトライボケミカル処理を行い、さらなる接着性の向上を図った。ジルコニア RBFDP の成功には症例選択、エナメル質を温存した支台歯形成、確実な接着操作が重要である。現時点の接着方法としては APC 法が合理的であり、最有力な接着技法と考えられると報告された。

 

閉会のご挨拶

最後に閉会の挨拶として、実行委員長の中島圭治先生より挨拶があり2025年度日本臨床歯科学会第10回学術大会は盛会にて幕を閉じた。

 

 

示説発表(ポスターセッション)

P01 空隙歯列に対するアディショナルベニア治療の臨床的有用性と適応基準

本多歯科 本多弘明 先生

空隙歯列を有する患者に対して独自の治療選択基準を考案した。その基準に基づき、今回正中離解の患者に対してアディショナルベニア治療を選択することで、治療効率が向上し、患者満足度も高い結果を得ることが出来た。

 

P02 前歯部審美障害に対してアライナー矯正と歯冠長延長術を併用した一症例

はりまや橋溝渕歯科・矯正歯科クリニック 溝渕隆宏 先生

上下顎前歯部の叢生を有する患者に対してアライナー型矯正装置にて矯正治療を行った後、歯冠長延長術を施行し、最終的に上顎右側中切歯をラミネートベニアで修復したケースを報告された。

 

P03 歯列不正を伴う咬合再構成症例に対するSequential Treatment Planning の実践

草野歯科 郡司良律 先生

複数の臼歯部歯牙欠損、不良補綴物および歯周病等による歯列不正を有する患者に対して咬合再構成をおこなった4年経過症例を発表された。

 

 

P04 咬合接触の無い少数歯残存患者をテレスコープデンチャーにて補綴した 1 症例

高忠デンタルクリニック 髙橋忠弘 先生

 74 歳の高齢男性の少数歯残存に対して歯の保存を第一に考慮してテレスコープ義歯の一種であるレジリエンツテレスコープを用いて補綴を行った。残存歯を有効活用しながら、治療期間、治療費用、治療計画の単純化が可能であったと報告された。

 

P05 顎位のずれにより咬合崩壊を起こしつつある患者に対して,咬合再構成を行った症例

はらだ歯科・矯正歯科 原田篤志 先生

顎位が不安定で前歯部に咬合接触がなく、アンテリアガイダンスが不良であった患者に対して、下顎前歯部にLOT、上顎前歯部に歯冠延長術を用いて咬合再構成をおこなった症例を報告された。口腔内の環境整備を行い、既存補綴装置をやりかえることで、臼歯部咬合の安定とアンテリアガイダンスの再建、前歯部の審美性を確立することができた。

 

P06 空隙歯列弓に対する MTM と補綴治療の併用による審美的回復した症例

並木坂デンタルクリニック 添島賢一 先生

上下顎前歯部に空隙があり、アンテリアカップリング不全および臼歯部のディスクルージョン不良を認めた患者に対して、スケルタルパターンおよびフェイシャルパターンを考慮し下顎位を決定後、MTM と補綴治療を併用して審美的・機能的回復を行い、治療後13年経過した症例を報告された。

 

P07 インプラント審美修復を有利に進めるためのラボサイドワーク

オリーブデンタルハウス 岩川博和 先生

上顎4前歯の抜歯即時埋入のケースに対し、デジタルテクノロジーを活用して、術中に即時修復物を製作する方法とその最終補綴物への移行方法を中心に、インプラント審美修復を有利に進めるラボサイドワークについて報告された。

 

P08 マッチングスタンドを利用したデジタル補綴修復

にこにこ歯科 堀聖尚 先生

上顎前歯部の抜歯即時インプラント埋入を行った患者に対して、3D プリンターを用いて「マッチングスタンド」を作製し、そのスタンド上で暫間補綴装置の光学印象を採得したデジタルデータを活用することで、チェアサイドおよびラボサイドの処理時間を短縮できた症例を発表された。さらに、この方法によって暫間補綴装置の歯肉縁下形態からの立ち上がりだけでなく、歯肉縁上の歯冠形態も最終補綴装置に正確に反映できたと報告された。

 

協賛:

インビザライン・ジャパン株式会社

株式会社 GENOVA

科研製薬株式会社

ビエン・エア・アジア株式会社

株式会社 YDM

株式会社ナルコーム

株式会社茂久田商

YAMAKIN 株式会社

ソルベンタム合同会社

相田化学工業株式会社

株式会社ジーシー

大信貿易株式会社

タカラベルモント株式会社

エンビスタジャパン株式会社

アサヒプリテック株式会社

株式会社デンタリード

Ivoclar Vivadent 株式会社

クインテッセンス出版株式会社

株式会社ゼロメディカル

株式会社 松風

医歯薬出版株式会社

株式会社モリタ

株式会社フォレスト・ワン

株式会社ナカニシ

日本ハイネ株式会社

株式会社カイマンデンタル

ストローマン・ジャパン株式会社

株式会社トクヤマデンタル

株式会社 RAY JAPAN

株式会社メディカルネット

ノーベル・バイオケア・ジャパン株式会社

株式会社ピカッシュ

クラレノリタケデンタル株式会社

デンツプライシロナ株式会社

カボプランメカジャパン株式会社

ガイストリッヒファーマジャパン株式会社

帝人メディカルテクノロジー株式会社

株式会社 SCO グループ

株式会社ガイドデント

株式会社ネクステラ

 

平素より賛助のご協力ありがとうございます。

 

文責:澤井裕貴、中野忠彦


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